『胞状奇胎』
ついこの間までほとんど耳にしたこともない言葉だったんじゃありませんか?
PCでも変換もうまく出来ませんし。芳情期待とか・・・orz
胞状奇胎が何なのかということを少し書いてみます。
まずは~ え~っと、赤ちゃんをつくって、卵子と精子が受精して2週間位すると子宮内に入って着床しますね。
このあたりのことは昔学校で教わったとおりです。
で、この2週間の間に受精卵は、赤ちゃんになる部分である*『胎芽』と、胎盤になる部分の『絨毛』に分かれて成長しています。
*胎芽・・・胎齢が8週未満の赤ちゃんのことで、妊娠週では10週未満に相当します。胎齢が8週以降の赤ちゃんのことを「胎児」といいます。
つまり、順調に妊娠がすすむと、おなかの中には胎芽と絨毛の組織があるということになります。
ところが胞状奇胎の場合は、受精の時に
① 一つの卵子に二つの精子が侵入してしまったり(三倍体)
② 受精したときに卵子が死んでしまって精子の核のみが分裂してしてしまったり
③ 精子はないのに卵子だけで・・・
(原因は人それぞれ様々で、たまたまそうなったにすぎません。)
と、こんな状態のまま妊娠状態(といって良いのかどうか・・・)が継続してしまうことがあるんですね。
すると、どうなるのか?
胎盤になるはずだった『絨毛』という組織だけが「赤ちゃんを育てるぞ!」という制御から外れて、ドンドンドンドン増えていってしまうことになるんです。
それで子宮が『絨毛』にほぼ満たされてされてしまう状態を「胞状奇胎」と呼んでいます。
『胞状奇胎』は、『全胞状奇胎』と『部分胞状奇胎』に分類されます。
全胞状奇胎 | 部分胞状奇胎 |
妊娠反応はあるものの赤ちゃんは確認できず、子宮の中は赤ちゃんではなくて異常に発生した(腫瘍化した)絨毛組織に満たされつつあった、という状態。 | 妊娠当初は順調に胎芽と絨毛組織が共存していたが、何らかの原因で絨毛が制御を外れて異常に発生してしまうもの。 成長に従って腫瘍が大きく育ってしまい、胎児を飲み込んでしまいます。 極まれに妊娠後期まで共存し続けることもあるようです。 |
『腫瘍化した』と書きましたが、胞状奇胎は『腫瘍』の一種です。
腫瘍とは生体内の制御から外れて「自律的な増殖(好き勝手に増える)をするようになった細胞集団」のことで、
体の中で臓器などの『決まった形になるように細胞分裂をする(成長する)』という概念がない細胞集団のことです。
腫瘍と言われると少し怯んでしまいますが、胞状奇胎は良性の腫瘍です。
胞状奇胎になったら自覚症状はあるの?
胞状奇胎になっても普通気づきません。まったくわかりません。
当然、私も気づきませんでした。
あたりまえのように赤ちゃんを産めるものだと思っているし、
胞状奇胎という病気があることすら知らないですからね。
まして初産だったりすると、比較の対象がないので気付きようもありません。
でも、胞状奇胎を知らなくても、たまごクラブとかの本に書いてある妊婦さんの状態と違う自覚症状が出たりすると、「なにかがおかしい」と感じる方もいるみたいです。
では、妊婦さんとちょっと違う自覚症状を上げておきます。
一般的な自覚症状 | こぶの場合 | |
下腹部痛 | ある人もいれば、ない人もいます | なし |
不正出血 | 継続的にある場合と、断続的に少量ある場合があります | なし |
つわり | *hCGの数値が急激に上昇するので、重い。 とにかく重い。 吐き気や食欲不振を伴うこともあります。 |
妊娠3ヶ月目に入って吐き気の症状が出始め、毎日2~3回吐くようになった。 でも、吐いたあと数分でまた食べられるようになるので、ヨーグルト・シリアル・グレープフルーツ・トマト・レタスなど口当たりの良いものを好んで食べていました。 おっぱいも、C→Fカップになった。 |
病院での胞状奇胎の診断法
病院での診断では、こんなことをチェックします。
① エコー検査で、子宮の中にブツブツしたものはないかな?
② 妊娠週数に対して、子宮は大きくないか。軟らかくないかな?
③ 血中(尿中)hCG値が異常に高くないかな?
これらの項目を組み合わせて診断していきます。
このほか、胞状奇胎には次のような特徴があります。
- | 一般的な症状 | こぶの場合 |
胎芽 (たいが) |
確認できない場合がほとんど。 部分胞状奇胎の場合まれに確認できる事もあります。 |
11月の診察で院長に 「ここに赤ちゃんがいますよ。」といわれたけど、後に大学病院では、「この超音波エコーの写真に写っているのは胎児じゃなく、エコーの影。」と言われたから、最初から赤ちゃんは確認できていなかったのかもしれません。 |
子宮 | 妊娠週数に比べて大きくてやわらかい。 | 初診の時から「子宮が大きい」と院長に言われていました。 |
尿中hCG | *hCGが10万IUの場合には「胞状奇胎に可能性が高い」と診断され、50万IU以上ある場合には、「確実に胞状奇胎である」と診断されます。 | 掻爬する前のhCG値を聞いていないから分かりませんが、 2回掻爬したあと、hCG値990,000まで上がり、 大学病院で絨毛がんと診断されました。 |
胎児心拍 | 確認できない場合がほとんど。 部分胞状奇胎の場合、まれに確認できる事もあります。 |
なし。 |
これらの症状がない場合に流産と診断されて、子宮内を掻爬(かきだして)した時点で初めて胞状奇胎と診断されるケースも間々あるようです。
* hCGとは・・・妊娠を維持させるために重要な働きをするホルモンで、正確には『ヒト絨毛性コナドトロピン』と言います。
面倒なので誰も『ヒト絨毛性コナドトロピン』とは呼ばず、単にhCG(Human chorionic grade)と呼びます。
このホルモンは、受胎が起きると胎児の栄養膜から分泌されるようになります。
分泌が始まると、血液や尿にも混じるようになるので、妊娠検査薬は尿で検査するわけです。
妊娠検査薬は、このhCGに試薬が反応するかどうかで妊娠を判定しています。
市販の妊娠検査薬は、尿中のhCGの値が10,000以上で反応します。精密な検査はできません。
胞状奇胎の治療法
治療は胞状奇胎を掻きだす方法で行われます。
この方法は『子宮内掻爬(そうは)術』や『子宮内容除去術』と呼ばれています。
エコーで見える範囲の腫瘍化した組織を子宮から掻き出して吸い取って行きます。
1週間くらいの間隔をあけて、2回~3回程度(状態や病院によって)同じように施術します。
この処置の際には、子宮が非常に軟らかくなっているので、子宮にキズが非常につきやすい状態になっています。
やりすぎると子宮を破って穴を開けてしまうこともまれにあります。
掻爬された腫瘍は、病理検査にまわされて「ただの胞状奇胎なのか何なのか」を見極めます。
病院によってはこの処置の後に、侵入奇胎などのリスクを消すためにレントゲンやMRIなどで検査をする場合もあります。
この掻爬術が終了すると、子宮は妊娠している状態ではなくなるのでhCG値は下がっていきますが、
お医者さんに「もう大丈夫だよ。」といわれるまでは、きちんと指示の通りに通院して(2週間おきとか1カ月おきとか)hCG値の検査を受けましょう。
それから、病院でも言われると思いますが基礎体温を毎日つけていくと便利です。
素人でも、グラフを見れば体の状態が一目で分かります。
こぶも抗がん剤治療のあとの2ヶ月間は毎日、3ヶ月目以降は2日おきに付けています。
基礎体温表の見方
奇胎組織がなくなっていれば、体は「私は妊娠していない」と判断して、卵巣が機能し始めます。
すると、当然排卵がおこるので、基礎体温のグラフは高温と低温の2相性を示すようになります。
妊娠や胞状奇胎の取り残しなどでhCGが分泌されていると、卵巣の働きが弱まって排卵が乱れ、基礎体温は2相性を示しません。(教授の直伝です)
基礎体温表 ダウンロード 花王 ロリエ 基礎体温表
掻爬後のhCG値の低下の目安
一般的な数値 | こぶの場合 |
2回目の掻爬術後5週で 1000IU/L以下
(妊娠反応のない状態)まで低下すればOKです。 |
2回目の掻爬術後、約1ヵ月半(44日)後のhCGの値は
|
-追記-
『最近の胞状奇胎の治療について』
2008年5月現在、胞状奇胎に対して『抗がん剤EMA/COを投与すると治りが良い』という論文の発表が相次いだため、胞状奇胎の患者さんにEMA/COを使う病院がチラホラ出てきているそうです。
EMA/COは基本的には絨毛がんに使う薬で、非常に強い薬です。
それを単なる胞状奇胎に使えば治りは早まりますが、その分だけ副作用という【反動】も大きく出ることとなります。
きちんとした説明と治療中のケアについて十分に相談した上で治療を受けてください。
まずは病院で、EMA/COでの胞状奇胎の治療実績を聞いてみましょう。
「初めて」とか「何年か前にやった」という程度の実績しかない病院は、副作用の管理などが出来ない可能性がありますのでオススメできません。
2012年の追記
ここ数年の間に以前から絨毛性疾患の権威とされていた先生方が退官され、
他大学の教授に引き抜かれています。
最近まで絨毛性疾患の老舗として知られていた大学病院も、一気にただの病院になってしまい、
治療の方法それまでとはガラッと変わってしまっている病院があります。
注意が必要です。
生理の再開
個人差はありますが、術後約1ヶ月くらいで再開する人もいるようです。
再発の可能性
胞状奇胎は、癖になる病気ではありません。
次回の妊娠の時に、また胞状奇胎になる確率は通常の妊娠時よりもはるかに低いものです。
次に向けて
最低半年から長くて5年の経過をみて妊娠が解禁されます。
治療が一段落してもお医者さんの指示には従って、 定期検診( hCG値の定期外来検診)を受けましょう。
hCG値の経過観察中に妊娠してしまうと、妊娠して数値が上昇しているのか、絨毛ガンや侵入奇胎へ移行して上昇しているかが分からなります。
許可が下りるまでは絶対に避妊しましょう。
良くない話
掻爬してから順調にhCG値が下がれば『胞状奇胎』の治療は終了に向かいます。
下がりが悪かったり、下がった数値がまた上昇してくれば、MRIやCT、レントゲンを用いての精密検査をします。
この結果、hCGの値が高いにもかかわらず画像上に病巣をが発見されない場合には、「奇胎後hCG存続症」とされ、病巣が発見された場合には『絨毛癌診断スコア』を用いて病気を特定します。
絨毛癌診断スコア
もし、数値が「どうも怪しい」場合には、下のスコア表に照らし合わせてその合計スコアで病気を診断します。
4点以下の場合・・・侵入奇胎等
5点以上の場合・・・臨床的絨毛癌 となります。
スコア (絨毛がん である可能性) |
0 (~50%) |
1 (~60%) |
2 (~70%) |
3 (~80%) |
4 (~90%) |
5 (~100%) |
|
先行妊娠 | 胞状奇胎 | 流産 | 満期産 | ||||
潜伏期 | ~5ヶ月 | 6ヶ月~3年 | 3年~ | ||||
原発病巣 | 子宮体部 子宮傍結合織腔 |
卵巣 卵管 |
子宮頸部 | 骨盤外 | |||
転移部位 | なし または 肺・骨盤内 |
骨盤外 (肺を除く) |
|||||
直径 | ~20mm | 20~30mm | 30mm~ | ||||
大小不同性 | なし | あり | |||||
個数 | ~20 | 20~ | |||||
尿中hCG | ∼ 106 mlU/ml | 106 mlU/ml ~ 107 mlU/ml |
107 mlU/ml~ | ||||
BBT 〈基礎体温〉 (月経周期) |
不規則 一相性 (不規則) |
二相性 (整調) |
先行妊娠・・・・直前の妊娠の状態。
潜伏期・・・・・・直前の妊娠の終了から診断までの期間。
大小不同性・・・肺の影の大きさに、1cm以上の差があるかどうか。
BBT(基礎体温)・・・直前の妊娠の終了から診断までの間に少なくとも数ヶ月続いてBBT(基礎体温)が二相性を示すか、規則正しく月経が来ていた場合
には整調。整調とまでは言えなくとも、この期間内に血中のhCG値がカットオフ値(基準値)以下であることが数回確認されれば5点となります。