病気と抗がん剤のこと    がん細胞と抗癌剤のはなし

細胞のはなし

私達の体は60兆個ともいわれる細胞からできています。
この無数の細胞も、もとはといえば1つの受精卵から発生を開始したものです。

『受精卵がどこのどの細胞になるか』
こんなことは分かりませんが、さかんに細胞分裂を繰り返すことで各種幹細胞となり、
さらに組織固有の形や機能を持った細胞に変化し、組織や臓器を形作って行きます。
この過程を『細胞分化』と呼びます。

基本的に『細胞分化』は一方通行で、肝臓が未分化細胞に戻ったりすることはありません。

未分化細胞

低分化細胞

高分化細胞(肝細胞など)

というプロセスで成長してきます。

分化の度合いが低い(未分化・低分化)正体不明な細胞ほど細胞分裂の頻度が高く、
分化が進んだ細胞(高分化)ほど分裂頻度は低くなって、臓器としてコントロールされるようになります。

正常な細胞の分化
未分化細胞 分裂 低分化細胞 分裂 各臓器の細胞
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がん細胞の発生と増殖

 正常な細胞が未分化から高分化へのプロセスを進めている間に、《分化》という一方通行の道を逆走してしまう”いかれた細胞”がいるんです。

その名はがん細胞。

この逆走も名づけて『幼若化』といいます。

 せっかく臓器や様々な組織として働いている所に、突然(変異して)現れ、ものすごいスピードで周りを巻き込みながら、未分化細胞に逆戻りしていきます。

しかも、老化して細胞死するということがないので、栄養がある限り、すなわち患者が生きている限り増殖を続けて行きます。

 人間の体には『キラー細胞某』という、いわゆる免疫細胞が備わっていて、体内で発生するがん細胞などの細胞の不良品を日夜攻撃してやっつけてくれています。

ところが、栄養状態悪くなるとこの働きが弱まってしまうことがわかっています。

この免疫細胞が働かない状態が長く続いている間に、がん細胞はドンドン元気に大きく育っていきます。

がん細胞
各臓器の細胞 突然変異で発生
幼若化
低分化がん細胞
未分化がん細胞
分裂 がん組織
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体の中で起きていること

がん細胞がドンドン元気になっていくと・・・

①『無制限に栄養を使って増殖するため、生体は急速に消耗する』

「あの人、急に痩せたと思ったら《がん》だったんですって。」こんな会話もたまに聞くこともあるでしょう。
「無制限に栄養を使って」と書きましたが、一説には正常細胞の3~8倍のカロリーを消費するとあります。
だから、『からだは急速に痩せて、ガンだけが育つ』ということになるんです。

こぶは、痩せ始めた時期に、先生に毎日体重を聞かれていました。
おにぎりサイズのガンがお腹にあった頃の話です。

 さて、私達の体の大きさは変わらないのに、いらないものばかりがドンドン大きくなっていけば、もともとそこにあった内蔵なんかが、がん細胞に押しのけられて本来の働きができなくなってきます。そうなると・・・
②『臓器の正常組織を置き換え、もしくは圧迫して機能不全に陥れる』
内臓の出入り口の管なんかが潰されてしまうと、内臓の働きも悪くなります。

  そのほかにも、こんな事もあるそうです。
③『異常な内分泌により正常な生体機能を妨げる』そうです。
どういう意味なんでしょう?

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抗がん剤

この細胞の《幼若化》に目をつけたのが抗がん剤です。

幼若化したがん細胞は、急激な分裂をしていきますので、抗がん剤は、
『急激に分裂する細胞めがけて効果を発揮すればOK!』という考えで作られています。

 そこで問題になることが一つ。
・・・体の中で分裂の早い細胞は、がん細胞だけではないということなんです。

骨髄で造られる血液細胞、消化器の細胞、生殖器の細胞、毛根細胞などがそうです。

がん細胞もろとも、こういった正常細胞までやっつけられてしまうので、
巻き添えを食った正常な細胞の所に副作用が出現します。

また、抗がん剤の中には、心臓、膀胱、肺、神経系の細胞にも悪影響を与えるものもあります。

抗がん剤といえば、テレビなどでは点滴のものばかりが目に付きますが、実は飲み薬も、塗り薬もあるんです。
ここでは、点滴で使う薬についてほんとにほんのちょっとだけ書いておきます。

アルキル化剤 がん細胞のDNAを壊したり、複製の邪魔をしてがん細胞の増殖を抑制します。
代謝拮抗剤  体内に存在する物質に似た構造をしている物質で、がん細胞の代謝(=活動)の邪魔をします。
植物由来のアルカロイド抗腫瘍剤  植物から抽出された塩基性有機化合物で、がん細胞の分裂の邪魔をします。
抗腫瘍抗生物質  微生物などから作られ、がん細胞のDNAと結びついてDNAの合成の邪魔をします。
ホルモン療法  性ホルモンで活性化する乳がんや前立腺がんに使われます。
白金化合物製剤  プラチナが入ってます。DNAの二重螺旋鎖を壊してがん細胞の増殖を邪魔します。
生物学的治療薬
 
インターフェロンなど免疫機能を高めることでがん細胞の増殖を邪魔します。

と、大まかに分類されます。

このように分類されたうちのいくつかの抗がん剤を、部位や症状によってあらゆる組み合わせをして治療する多剤併用療法も一般的です。
例えば、
 こぶが愛用していた(したくなかったけど)抗がん剤の組み合わせ<MEA>は、

メソトレキサート(葉酸代謝拮抗剤)
アクチノマイシンD(抗腫瘍性抗生物質)
エトポシド(抗悪性腫瘍剤)
の組み合わせでした。

こぶが入院していた病院で、卵巣がんや子宮体がんの患者さん達がしていたCAP療法では、シスプラチンが白金化合物製剤。
ドキソルビシン・シクロホスファミドが抗悪性腫瘍剤です。

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よく起こる副作用

 吐き気
 抗がん剤が腸に働きかけ、それが脳を刺激して起こります。
個人差があり、投薬後すぐに吐き気が現れる人もいれば、しばらく経ってからという人もいます。

 一度吐き始めると、治療が終わるまで吐き気が続く人もいれば、投薬直後だけという人もいます。
また、精神的なことも影響します。

最近では、ほとんど吐き気を感じないまでに軽減することができる新薬が出ていますので、吐き気が強いときには先生に相談してみてください。


 便秘・下痢 
 抗癌剤によって消化管の粘膜が攻撃され、腸の機能が低下したり、不安定になることで発生します。   

軽度であれば、様子を見るだけの場合が多いようです。

というのも、下痢によって悪いばい菌や余分な薬・食べ物などを早く体の外に出してしまうことができるからです。

下痢をしたからといってあわてて下痢止めを飲むと、今度はひどい便秘になって下剤を何度も飲むはめになったりすることもあります。

逆に便秘だからと言ってすぐに下剤を飲むとその後ひどい下痢がおこり、いつまでも続いたりすることがあります。

 患者さん自身は、それ程神経質になる必要はありませんが、この症状については、お医者さんにはキチンと報告しておいたほうが良いでしょう。


 口内炎
 抗癌剤によって口腔粘膜が傷害されることによっておこります。

うがい薬である程度は予防できるとされていますが、効果があったと言う話を私は聞いたことがありません。

口内炎が出てしまった場合には、飲み薬や痛み止めの入ったうがい薬、ケナログなどの軟膏で症状を緩和します。


 脱毛
抗癌剤が、分裂の早い毛根細胞をも攻撃することで起こります。
投与を開始して、 2 ~ 3 週間で起こります。

薬剤の種類や量、また個人個人によって、少し薄くなるだけという場合から、全身の毛という毛すべてが抜けてします場合があります。
抜けるときには一気にバサッと抜けるので、治療前からしっかりとした心構えが必要です。

 脱毛は一時的なもので、抗がん剤の投与が終わればまた生えてきます。
ただし、再び生えてくる髪の性状が、以前と全く同じにならない場合もあります。
細くなったり逆に太くなったり、ウェーブがかかることともあります。


 骨髄抑制
 骨髄は、血液中の「白血球」、「赤血球」、「血小板」の 3 種類を作っているところです。
抗がん剤の副作用によって骨髄の機能が低下し、これらの細胞成分は、3 種類とも減少してしまいます。

① 白血球(とくに好中球)の減少
 普段、体の内外のばい菌と戦っている白血球が減少すると、ばい菌に感染しやすくなるので、多人数部屋から個室に隔離され、白血球を早く増やす薬や抗生物質を使用して、元の状態に戻るのを待ちます。この間は抗がん剤の治療ができなくなることがあります。

 白血球の数は血液 1mm3(= 1μl )に含まれている数で表します。
通常は、3000~9000個程度 ( = 3000 - 9000 /μl ) ですが、白血球が 1000個/μl以下 ( 好中球 500/μl以下 ) になると細菌感染が起こりやすくなります。感染自体は、もともと菌の多い口の中や皮膚・肺・直腸・泌尿生殖器などで発生します。

 さらに白血球が減って、500/μl以下 ( 好中球 100/μl 以下 ) になると、激しい寒気と発熱を繰り返す (菌血症や敗血症と呼ばれる状態 )や、肺炎などになりやすくなります。

② 赤血球(ヘモグロビン)の減少
 一言で言えば、貧血になるということです。
赤血球はヘモグロビンを使って酸素と二酸化炭素の交換をしています。ヘモグロビンが減ると、体内に十分な量の酸素が供給されなくなるために、疲れやすく なったり、息切れ、めまいなどが起きやすくなります。ヘモグロビンの値が低いと、抗がん剤の治療ができなくなることがあります。
 赤血球を増やすために、鉄剤とビタミンCが処方されます。症状が改善されない場合は、輸血をする場合もあります。

③ 血小板の減少
血小板は血を止める役割を担っています。血小板が減少すると、ちょっとしたことで皮膚,歯茎,鼻などから出血してきます。
血小板の正常値は通常、15万~40万個 /μl くらいです。極端に血小板が減少してしまった場合には、輸血を行います。


 腎障害
 腎臓は不要になった薬剤を尿に排出する働きをしています。
尿の原料となる水分の摂取が少ないと、薬剤が排出されずに腎臓に障害を起こします。
お医者さんの指示の通りに水分を摂りましょう。
どうしても水分がとれない場合は、お医者さんに相談しましょう。
水分点滴などの裏技もあります。


 皮膚とつめへの影響
 抗癌剤治療中に皮膚やつめにも多少の影響があります。

例えば、発赤、痒み、皮が剥けたり、肌が乾燥したり、吹出物ができたりします。
つめはもろくなったり、さけたり、すじが入ったり、変色したりします。

こぶの場合は、サプリメントでの栄養療法を併用していたので、「悪心・嘔吐・脱毛」程度の副作用しか出ませんでした。


 以上、一般的な副作用を書きましたが、どのような副作用が現れるかは、使用する抗癌剤の種類と量によって異なります。
また、個人差もありますので、ここに書いてあることがすべてではありません。 副作用には
  ① 薬を中止して、すぐに受診した方がよい副作用
  ② できるだけ早く医師に連絡した方がよい副作用
  ③ 程度にもよりますが、あまり気にしなくてよい副作用
などがあります。

よく分からないことや、不安なことがありましたら、一人で悶々と考え込まずに、気軽にお医者さんに相談しましょう。お医者さんにはその義務がありますので、その都度、お医者さんとの間で報告・連絡・相談をしてコミュニケーションをとりましょう。

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