『侵入奇胎』
胞状奇胎が、子宮の中いっぱいに広がってしまって、子宮の外に出ようとして子宮内膜(子宮の壁の内側の表面)から子宮内筋層(子宮の壁の内側)に刺さって、侵入してしまっている状態を、侵入奇胎といいます。
侵入奇胎も胞状奇胎も、自覚症状の上では明確に区別できるようなものはありません。
組織自体も同じ良性腫瘍です。
簡単に言えば、『奇胎の組織が子宮の中で収まっているか、外にに出ようと子宮の壁に刺さっているのか』という違いですね。
胞状奇胎の検査で使ったエコーは、子宮の中身は見る事はできるんですが子宮の壁の状態までは見ることができないんです。
ですから、ただの胞状奇胎だと思って掻爬術をして、しばらくたってまたhCGが上がってきたから
「胞状奇胎じゃなくて、侵入奇胎だったんだ。∑( ̄ロ ̄|||)なんと!?」ということもあるようです。
胞状奇胎もそうですが、侵入奇胎も腫瘍の組織が血液に乗って肺に転移する事があります。
良性の腫瘍が転移したというだけでは、癌組織の転移ほど即座に生命に関わるような危険性はないとされています。
胞状奇胎のイメージ | 侵入奇胎のイメージ |
侵入奇胎の治療
次の①か②を選択して治療をしていきます。
①子宮を全摘する
教科書では、子宮全摘が通常療法とされています。
ただ、今後赤ちゃんを望む方の場合には抗がん剤での治療も考慮しますので、
赤ちゃんを望まない方の場合の治療法といえます。
肺転移がある場合には、子宮摘出後に抗がん剤を併用します。
②抗がん剤治療で腫瘍組織を溶かす。
今後赤ちゃんを望む場合で侵入の深度が極端に深くない場合には、子宮を温存するために抗がん剤を使って腫瘍を殺していきます。
侵入奇胎が子宮筋層深くまで侵入してしまい出血が大量にある場合には①が選択されます。
数値管理
子宮の摘出や抗がん剤治療のどちらを選択しても、数値管理はきちんとしなければいけません。
もちろんhCGです。
hCGは妊娠検査薬を使った頃からのおなじみですが、侵入奇胎では新たに【β(べーた)hCG】という数値も用います。
hCGとβhCGの違いは、大雑把か精密かという違いです。
hCG=大雑把
βhCG=精密
こんな感じです。
通常のhCG検査では、いろんな種類のホルモンやαhCGやβhCGまで拾ってしまうため概算的な数値としてしか機能しません。
妊婦さんならhCGだけみていればいいのですが、「治療」となるとそうはいきません。
治療において、治ったかな?まだかな?という診断を下すのにはやっぱり精密に診てもらいたいですよね。
βhCGの値は純粋にβhCGだけを拾った数値なので、正確な値が分かります。
ちなみに、同じ血液を検査してもβhCGが200のとき、hCGは300,000近くの値が出ますよ。
最終的に、hCGの値とβhCGの値が基準値以下になれば治療は終了となります。
基準値は病院で使っている機材によって違うので、主治医の先生に聞いてくださいね。
それから血液検査のやり方によっても表現の仕方が違うので注意が必要です。
代表的なものにCLEIA法とEIA法があります。
CLEIA法の場合、hCGとβHCGは素直にこの通り表示されますが、
EIA法の場合にはβhCGのことをhCGと表記します。
計測単位も違うので区別がつくと思います。
hCGが『 mIU/ml』 または 『IU/L』
βhCGが 『ng/ml』 です。
IUというのはInternational Unitの略だそうで、日本語では国際単位と言われています。
EIA法のhCGはCLEIA法のhCGとは全く違う値が出るということを覚えておいてくださいね。