絨毛がん
よく、よそのサイトに『再発したら「絨毛癌」』とか、『最終段階』と書かれているものがありますが、絨毛がんはそんなものじゃありませんよ。
「胞状奇胎や侵入奇胎の腫瘍組織が悪性化したものが絨毛がんです。」とも色んなところに書いてありますが、事はそんなに単純なことではなくて、もっと複雑で難しいことです。
絨毛がんの実際
胞状奇胎や侵入奇胎は、悪性化すると「ガン」になるんでしょうか?
答えは「NO!」です。
胞状奇胎と侵入奇胎、絨毛がんは、最初の始まり方がすごくよく似ています。
どの病気でも「絨毛がすごく増える」ことから始まるんですね。
だから、胞状奇胎や侵入奇胎の延長線上に絨毛がんがあるように見えるんですが、
実は始まりから違うんです。
胞状奇胎や侵入奇胎が比較的緩やかにhCGが上昇するのに比べて、絨毛がんはもの凄いスピードで上昇していきます。
絨毛がんは掻爬した後でも凄いスピードを保ち、hCGが上昇し続けます。
と書くと、「絨毛がんは簡単にわかりそう」にみえてしまいますね。
でも、日本国内では絨毛がん自体が減っています(国内でも西高東低の傾向にあります。)
この病気について治療経験のあるお医者さんがあまりいないというのが現状です。
ですから、最初から確定的な診断をすることはなかなか難しいです。
hCGやβhCGから判断しようとする病院もけっこうありますが、数値だけではなくてきちんとした判断基準が用意されています。
それが胞状奇胎のところでもでてきたです。
↓これね。
スコア (絨毛癌である可能性) |
0 (~50%) |
1 (~60%) |
2 (~70%) |
3 (~80%) |
4 (~90%) |
5 (~100%) |
|
先行妊娠 | 胞状奇胎 | - | - | 流産 | - | 満期産 | |
潜伏期 | ~5ヶ月 | - | - | - | 6ヶ月~3年 | 3年~ | |
原発病巣 | 子宮体部 子宮傍結合織腔 |
- | - | 卵管 卵巣 |
子宮頸部 | 骨盤外 | |
転移部位 | なし・肺・ 骨盤内 |
- | - | - | - | 骨盤外 (肺を除く) |
|
直径 | ~20mm | - | - | 20~30mm | - | 30mm~ | |
大小不同性 | なし | - | - | - | あり | ||
個数 | ~20 | - | - | - | - | 20~ | |
尿中hCG値 | 106 mlU/ml | 106 mlU/ml ~ 107 mlU/ml |
- | 107 mlU/ml~ | - | - | |
BBT(基礎体温) (月経周期) |
不規則 一相性 (不規則) |
- | - | - | - | 二相性 (整調) |
先行妊娠・・・・直前の妊娠の状態。
潜伏期・・・・・・直前の妊娠の終了から診断までの期間。
大小不同性・・・肺の影の大きさに、1cm以上の差があるかどうか。
BBT(基礎体温)・・・直前の妊娠の終了から診断までの間に少なくとも数ヶ月続いてBBT(基礎体温)が二相性を示すか、規則正しく月経が来ていた場合
には整調。整調とまでは言えなくとも、この期間内に血中のhCG値がカットオフ値(基準値)以下であることが数回確認されれば5点となります。
このスコアに当てはめてみて、数値が高ければ臨床的絨毛癌、そうでもなければ侵入奇胎や存続絨毛症などと診断されます。
ここでよく見て下さい。
「臨床的」ってついてますよね。これは、『病状から見た感じ』といったような意味です。
「hCGが高いぞ!スコアはどうだろう?」
と、当てはめていくことで病名が決まりますから、この段階ではガンの細胞を直接先生は確認したわけではありません。
こんなわけですから、『数値上』は絨毛癌の患者さんも、『本質的に』絨毛癌の患者さんも一緒くたになっています。
ガンなのかガンじゃないのかそうじゃないのか、患者としてははっきりしてほしいところですが、それはちょっと無理なお願いです。
癌なのか何なのかを厳密に確認するには、子宮を取り出してがん細胞を探し出して顕微鏡で見なくちゃならないからです。
これが出来ないから、病状から見た感じで「絨毛癌だね」と診断されることになります。
絨毛がんは、比較的早い時期から血液に乗って他の臓器に転移します。
絨毛がんは、肺が大好きです。よく転移します。
『「脳転移」もします。』と書いてあるサイトもありますが、肺が転移でいっぱいにならない限りは、あまりありませんから気にする必要はないと思います。
それから、絨毛がんにも分類があります。
妊娠と関連して発生したかそうでないかにより、<妊娠性絨毛がん>、<非妊娠性絨毛がん>と書類上だけ呼び分けます。
腫瘍マーカーとかステージとか
がんと言ってまず思い浮かぶ言葉は、”腫瘍マーカー”とか”ステージ”でしょう。
テレビなどでも良く耳にするので、意味は分からなくても知っている方も多いと思います。
どれだけ病気が進んでいるかを表す言葉ですから、医者と患者以外が使って良い言葉ではありませんね。
腫瘍マーカーとは、がん細胞があるかないかの目印(マーカー)になる物質の総称で、【腫瘍マーカー】という物質があるわけではないんです。
がんが発生した臓器や部位によって、体内で作られる物質が異なるので、それを目印(=腫瘍マーカー)にしてどこで<がん>が発生しているのかを知ることができます。
胃がんではACT 、肺がんではCEAなどを使います。
腫瘍が大きければ腫瘍マーカーの数値は大きく、腫瘍が小さければ数値も小さくなります。
絨毛がんの腫瘍マーカーは、おなじみのhCGとβhCGを用います。
それからステージ(病期)は、こんなですが、治療中は「ステージ」や「クラス」みたいな言葉はほぼ、というか全く使いません。
I期 | 腫瘍が子宮にとどまっているもの。 |
II期 | 腫瘍が子宮を越えて拡がるが、性器(卵巣、卵管、腟など)にとどまっているもの。 |
III期 | 性器病変の有無にかかわらず、肺に病変を認めるもの。 |
IV期 | 肺以外の臓器に転移を認めるもの。 |
絨毛がんを治療しよう!!
がん細胞について、どんな攻撃を加えていくかですが、がんの治療法は厚生労働省が認可した方法しか使えません。治療方法に認可がいるなんて普段の生活では考えたこともないんですが、実はそうなんですね。
で、がんに使うことが認められている治療法は、3大治療法といわれるものがあります。
① 切る(手術)
② 焼く(放射線)
③ 薬(抗がん剤)
です。
絨毛がんの場合、切っても良いなら切って、その後抗がん剤を使います。
切らなくても良いなら無理には切りません。
こんなわけですので、ここでは抗がん剤治療について書いてみますね。
抗がん剤についてあまり良い印象を持っている人はいないと思います。
(なかにはいるかもしれませんけどね・・・。)
で、この抗がん剤は絨毛がんによく効きます。
が、その分副作用も良く出ます。
物理かなんかの「作用・反作用の法則」みたいに薬を打ったら跳ね返ってきます。
反作用があるということは「薬がきちんと作用してるからだ」ともいえますから、副作用はつらいかもしれないけど少し喜んでくださいね。
絨毛がんに使える抗がん剤は色々とあります。
【 表1 】 | |
薬品名 | 販売会社と商品名 |
メソトレキサート (MTX、Methotrexate) |
ワイス/武田→メソトレキセート(METHOTREXATE) |
エトポシド (etoposide) |
日本化薬→ラステット(Lastet) ブリストル・マイヤーズ→ベプシド(VePesid) サンド→サンド(SANDOZ) |
シクロホスファミド (cyclophosphamide : CPA) |
塩野義→エンドキサン(Endoxan) |
ビンクリスチン (vincristine) |
日本化薬→オンコビン(Oncovin) |
フルオロウラシル (5-FU) |
協和発酵キリン→5-FU注250 |
アクチノマイシンD (Act-D) |
MSD→コスメゲン(Cosmegen) |
このほかにも色々とあるんでしょうが、メジャーなところだとこれくらいだと思います。
病院によって薬品名で呼んだり商品名で呼んだりマチマチですね。
それぞれ単剤で使うことも出来ますが、いろんな組み合わせで使うことも出来ます。
たとえば
【 表2 】 | |
MA | メソトレキサート(MTX、Methotrexate)+アクチノマイシンD(Act-D) |
MAC | メソトレキサート(MTX、Methotrexate)+アクチノマイシンD(Act-D)+シクロホスファミド(cyclophosphamide : CPA) |
MEA | メソトレキサート(MTX、Methotrexate)+エトポシド(etoposide)+ アクチノマイシンD(Act-D) |
MOA | メソトレキサート(MTX、Methotrexate)+ビンクリスチン(vincristine)+アクチノマイシンD(Act-D) |
FA | フルオロウラシル(5-FU)+アクチノマイシンD(Act-D) |
EMA/CO | エトポシド(etoposide)+メソトレキサート(MTX、Methotrexate)+ アクチノマイシンD(Act-D)+ シクロホスファミ( cyclophosphamide : CPA)+ビンクリスチン(vincristine) |
基本的には、表①にある薬品の単剤による治療3クールから始めます。
その後順次薬品を変えたり、他の薬品と組あ合わせたりして治療を進めていきます。
ここで注意が必要なんですが、上のほうで
『経験のあるお医者さんがあまりいないので』と書きました。
ここからが重要です。
経験のない先生ほど、いきなり強い薬を使いたがります。
この時「ガツンとやってしまいましょう。」と威勢の良いことを言います。
弱い薬から始めて病気が悪化してしまったらこわいからです。
先生が責任を問われるのが怖いから、患者を怖がらせて強い薬を使うようにもっていきます。
強い薬というのは、当たり前ですが「強い副作用」がでます。
強い副作用が出るけど、先生はそんな薬は使ったことがありません。
そうすると絨毛がん自体は治るでしょうが、副作用の管理が出来なかったり、そのせいで後遺症が残ったり患者にとって良いような悪いような・・・。
それに、はじめから強い薬だと、その強い薬が効かなかった時選べる薬がなくなってしまいます。
再発したときに、その効かなかった薬を使う羽目になるかもしれません。
治療前に先生に、絨毛ガンを治療したことがあるか、その抗がん剤を使ったことがあるか。
副作用を管理できるのか、その薬を使うリスク、効かなかった時次はどの薬を使うのか、さらにその次は・・・とか、きちんと確認しましょう。
あとで困るのは自分自身ですよ。
と、まあ色々と書きましたが侵入奇胎同様、治療を受けてhCGとβhCGが基準値(カットオフ値)以下になれば治療は終了です。
現在、絨毛がんの生存率は90%程度です。
残念ですが、再発することもあります。